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黒柳徹子「トットチャンネル」:テレビの歴史を生きる

読書
彼女の書く文章の、つんのめるような独特のリズムが好きで、「窓ぎわのトットちゃん」は小さい頃からなんども読んだ。そんなことを思い出して、ドラマ化による満島ひかりの帯がかかっているこの新装版文庫を手に取った。

トットチャンネル (新潮文庫 く 7-2)

トットチャンネル (新潮文庫 く 7-2)

読んでみると、あのリズムはそのままに、彼女らしい素っ頓狂なエピソードがたくさんで読みやすく面白い。昔のテレビの現場は試行錯誤ながら本当にムチャクチャで、今だったら速攻で「放送事故」とかいってまとめサイトのネタになっちゃうようなものばかりだ。

しかし、最後に新装版文庫の解説と筆者のまえがきを読んでみたら、なんだか感傷的な気持ちにおそわれた。本編が書かれたのは今から32年前、その時点でも昔を懐かしんでの話なのに、現代から見たら日本のテレビの創生期なんて伝説みたいなレベルの回想になる。
その中で、黒柳徹子さんはずっと現役を走ってきた。この本の中に出てくる温かい大人たちは殆ど亡くなり、彼女自身が生きる歴史みたいになって、のこされたものとして、日本のテレビ放送が開始された約60年前から現代までをまえがきで振り返る。
私は、テレビジョン、という響きが今でも好きだ。見ている人が少ない、ということは、まだ視聴率も問題にされなかった。何かを言って、問題にされることもなかった。思えば、窮屈なところがおよそない、自由な時代だった。
撮影現場でエキストラ役をうまくやれず、怒鳴られ追い出された爺さんの老いをいたんで泣きじゃくっていた若い彼女が、数十年後、テレビの歴史をある種の痛みをもって振り返るだなんてこと、誰が想像しただろうか?